
●能楽堂で西洋の古楽を聴く
そして年があけ、別のお誘いがあった。まだ楽譜も楽器も現代のスタイルが確立されていない「古楽」という音楽ジャンルがある。バッハやヘンデル、バーセルなどの宗教的な要素の強い音楽で、教会や宮廷で演奏されたという。その西洋古楽の小さなコンサートだ。
この専門音楽家たちが能楽堂で演奏会をするとお誘いを受けた。梅若能楽学院会館というところで、私はそのヨーロッパの古楽と能楽堂というミュージック×プレイスが気になった。
出掛けてみると果たしてそこは、ポストモダニズムのような近代建築。昭和36年に建築家の大江宏さんという方が設計したコンクリートの建物の中の能楽堂がある(詳しいかた教えてください)。
屋根のバランス、交錯する階段や丁寧に造り付けられた家具。こんな建築が(東京中野区に!)残っていたなんて、ちょっと感激した。
ファゴット、チェンバロ、テオルボ、ヴィオローネ、フラウト・トラヴェルソ。
聞いたこともない楽器で、踊るように音楽が始まる。
能舞台の通路から静々と能の歩みで、女性オペラ歌手がゆっくり、ゆっくり舞台に近づいてくる様子もドラマティックで、古い楽器だけの素朴な音、特にチェンバロのチリチリとした氷のかけらが煌めくような音に魅了されてしまった。
音楽を文章を読むように聴き、ちょっと特別な空間で過ごす。そんな機会は今後もまだいくつかありそうな気がする。
Time&Style
Kei Akagi
古楽の演奏団体 コレギウム Space415
コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)
Text=Miki Homma(journalist)
最新号「リアルキッチン&インテリア」season11発売中
●前回のコラム「年が明けてみるとキッチンについて考える」はこちら
●次回のコラムはこちら