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Days & Stories

お茶とは植物との対話

2022.04.18 キッチンジャーナリスト 本間美紀

●茶杯を重ねるほど伝わる物語

陶芸家であり、自身のお茶の考え方を追求する市川さんは「お茶というのはそもそも、植物と水に向き合うことなんですよ」と話しながら、お湯を沸かしている。にょきっと煙突の出たコンロ?もオリジナルなのだという。

土鍋でまず黒米を炒る。枇杷の葉をふんわりと被せて、しばらく熱を加えている。「何がどうなるかは、米が教えてくれるんですね」と市川さんは爆ぜる音に耳を澄ませる。そのうちにさっと湯を掛けて、小さな器で一煎目をいただく。

さらに、その時々で各地から取り寄せる植物のお茶を加えていく。その日は滋賀か何処かから取り寄せた野草茶。枇杷の葉は取り出して、野草茶を加えて二煎目。味が変わった。

さらに市川さんは同じお茶に「塩」を加えて、すすめてくれる。三煎目。お茶なのにだし汁みたいな滋味!

そして次は市川さんが世界を旅した時に、少数民族からご馳走になったお茶をヒントにしたという1杯を勧めてくれた。なんと同じお茶にガラムマサラを加えたのである。体がぽかぽか温まる、カレーともチャイとも違う、個性ある飲み物になった。

「気候が厳しく植物もあまり生えない土地では、お茶を煎れる行為は植物の栄養を丁寧に引き出していただくことなんです」。漢方薬ともまた違う、日常の習慣として、お茶は植物と対話して、その力を滋養に変えることだと理解できた。そんな物語をたった3、4杯のお茶で伝えてくれた市川さんの茶道は、本当に“新茶道”だ。

そして市川さんはいろいろな茶車をつくっているそうだ。「茶車」とは木の枝や鉄の板、廃物などで工夫して創作する、どこにでも動かせるミニキッチンのようなもので、最小限のスペースで熱も材料も自然エネルギーを最大限活用して、目の前にいる人をお茶でもてなせる。それが茶車なのだった。小さな空間で集中しておもてなしをする「茶室」に比した言葉だと想像できた。

photo=norio kidera

インテリアも場所も選ばない。一期一会のお茶の心。茶車に台所の本質というものをあらためて感じて、柔らかい春色の京都を後にした。

コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)

●このホテル「モクサ」についての記事はこちらから(今回の茶席は内覧会のための特別イベントです、ご了解ください)

●前回のコラム「『組み立てる』ってすごいこと
●次回のコラム「船を見にゆく」

【本間美紀のコラム/バックナンバーはこちら】

 

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