
展覧会の最後では映像が流れていた。白い服を着た白髪の男性が、非常にユニークな動きでパフォーマンスをしていた。モダンバレエなのか、前衛芸術なのか、腕や手、足、体幹、一つ一つの動きから眼が離せない、
最後にその踊り手がフランチェスコ・ビンファレ、その人なのだと気づいた。
「身体と最も密接に関っているため、全てがデジタル化されても最後まで家の中に残るのはソファだろう」と彼は言っている。
エドラのソファの秘密は内部にある。見た目にはわからないが、詰め物の工夫で特別な触感を実現したり、オリジナルジョイントで、形を整えることができる。わずかな手の圧力で上下に動かせ、その時々の目的に最適な位置に簡単に調整できる。その技術「ザ・スマートクッション」は機能と呼ぶよりは、身体感覚の再現のために在ると感じる。
ビンファレ氏の作品に「オン・ザ・ロックス」というソファがある。中央に大蛇のように動くクッションがあり、この形を変えることで、座面の広さが変わる。背はむっちりとして体に密着してくる。ビンファレ氏が伝えたい身体感覚がじんわりと、自分の中に入ってくる。
それはエドラがファブリックやアップホルストリーなど、素材や技術をアーティストのランゲージとして駆使できるから、誕生したプロダクトなのだ。
一方でアーティスト本人はその感覚を伝えるために、自ら踊っている。
そのコラボレーションの凄さに最後の最後で気づいて、私はノックアウトされた。展覧会会場に用意されたエドラのソファにぐったりと身を沈めて、しばらく起き上がることができなかった。
コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)
Text=Miki Homma (journalist)
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小学館刊 著/本間美紀
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