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テクスチュアド・ファブリックという言葉

2023.06.26 キッチンジャーナリスト 本間美紀

●自然の素材感をそのまま写し取ったような

テクスチュアド・ファブリック、特に家具の世界で使われるものは、冒頭で紹介した「KAソファ」の苔ファブリックのように、自然を再現したものが多い。

こちらはアウトドア家具のパオラ・レンティから発表になった「ブルーコ」という椅子で、シンメトリーなサイドレストを備えた不思議な椅子。ブラジルのデザイナー、カンパーナが「メタモルフォーゼ(変容)」と題してつくったシリーズの一つだ。

長毛犬のような外見は、100%ペットボトルから再生した樹脂素材が使われていて、長い糸を切って毛先を開いた加工は、子どもの頃に毛糸を束ねて毛先を切ってボンボンをつくったことを思い出した。
花咲く草原のようにも、緑濃く繁る森林のようにも見える。もちろん動き出しそうな有機物にも。「オーガニック・ファブリック」の好例で、なんだか愛らしい。

モローゾが発表したこの「ペブル」はその名の通り、小石を重ねたようなフォルムのシーティングシステムだ。

張り地はデンマークの生地ブランド・クヴァドラと開発したもので、たしかコロナ禍前から準備していて、やっと2022年に発表できたもの。
雪原や草原などの景観、石や砂浜、樹皮、海面などさまざまな自然の色や素材感をフィールドワークで撮影し、それを精細なデジタルプリントで表現したモローゾだけのための生地を共同開発している。

着想した自然の景色の色と質感を同時に表現したこの椅子は、家具のフォルムと張り地のテクスチュアによって、本当の自然で五感で感じるなにかを室内に取り込もうとした挑戦的なアイディアだった。

モダン家具というと色が華やか、形が奇抜という言葉で済まされてしまうことが多いけれど、そんなことはない。
世界各地のプロフェッショナルたちが、五感を研ぎ澄ませ、どんな「質感」を捉えて、表現するべきか。
そこにはデザインのための、感性というアンテナが立っている。

 

コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)
Text=Miki Homma(journalist)

 

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