【本間美紀のコラム 2023/06/26】
あれ、なんだか変わっている。これで正しいの?
まずそう思ったのはミラノの「タイムアンドスタイル」のショールームだった。隈研吾さんが発表した三角形のソファ「KA」。
ソファの張り地が依れている。依れているといっていいのか。座るたびに布が動き、表情が変わる。
こういった生地を「テクスチュアド・ファブリック」「オーガニック・ファブリック」と呼ぶのだという。
背もたれが山波を思わせ、座面は草原のようにフラット。きっとスケッチ段階では、本当にこれはソファなの?と思う人もいただろう。
このカクカクしたフォルムを自然の山としたのが、この生地だ。とても立体的なのだ。
聞いてみるとこれは苔むす岩や地面の表情から隈さんが発想したオリジナルテキスタイルなのだという。
手触りはもこもこ、ざらり。布の触感を通して伝わるものもある。まさに触れて感じるデザインだ。
「数種類の実物の苔を用意して、表面の起伏を3Dスキャナーで取り込んでデータ化し、ホールガーメント式という筒状に立体的に編み込みました。日本的なモチーフを起点に新しいテクスチャーが生まれ、豊かな表情と手触りを持つ日本製のテキスタイルへの挑戦です。このテキスタイルは表面に凹凸があって、まっすぐに裁断することが難しく自動裁断機が使えないので、全て手作業で裁断が行われます。さらに、KAの直線的なアウトラインを表現した生地の張り込みは難しさを極め、職人たちの技術が集結したソファです」(「タイムアンドスタイル」のプレスリリースより)
座るたびに変わる布の凹凸は、季節や天候で変わる自然の景色のようだった。
これまでアップホルストリー(張りぐるみ)は革はピンと艶やかに美しいふくらみをつくりだすこと、テキスタイルはシワがよることなく張ることが正解だった。
そんな常識にとらわれないテクスチュア・ファブリックを張るソファやチェアが最近、目についている。