味わい豊かな文章が丁寧に書かれた「美味しい料理ができる」本だけを読んでいる。余分な写真はいらない。
もちろん写真はあってもいいけれど、頭の中で想像したことや実際にできたものと擦り合わせるだけ。見た目が違っていても、近い味、深い味がつくれることがある。理屈が理解できれば、その料理の本質が再現できることがわかった。
もちろん流行の動画サイトも手順としてはわかりやすい。
でも、私は一流の料理人の本の言葉を料理のように味わい、想像するのが好き。
そう思って色々読んでいるうちに、最後はブリア=サヴァランの「美味礼讃」にも突き当たった。不朽の名著には理由がある。「レストラン成立」の章はなるほどと腑におち、「ブリア=サヴァラン家の長い朝食」は、私もぜひお供したい教養ある食卓だ。
ブロガー料理本も実は意外と読む。いい内容は突出して良くて、紙面の文字で読むともっと良い。おしゃれな写真がなくてもいい。どんなにフォロワー数の多いSNS本でも、写真が素敵でも、ビュー数を稼ごうと追われた記事は浅い。
リアルキッチンの取材でもみなさん、本を読んでいる人が多い、そして本棚を見せてもらうことがよくある。私も持っている本が本棚にある。そういう時はとても深いところでつながっている気持ちになる。
「子どもの国語力が落ちた」。最近、よく耳にする話で、ネットのニュースでも目にする。ヤバい。可愛い。わずかなボキャブラリーだけで、心の中に起こったさまざまな感情の波をアウトプットする。それが許される時代。「いいね」を押すスピードは信じられないくらい速いという。
私もメディアをつくりながら、これを伝えるのはどんな方法がいいのか。言葉なのか、写真なのか、動画なのか、コンテンツに合わせて多様な手法を考える機会が増えた。
特に難しいのは右脳的なもので、読む人、見る人の立ち位置や経験で判断が変わるもので、数字的な根拠や絶対的な正解がないものである。
実は今、そんな思いとは逆に、写真の点数を思い切り絞って大きく使い、言葉をうんと減らして、それでも私の感じた家具やインテリアの考えを伝える本を作っている。それは私がいろいろなインテリアの取材を見て、感じた一つのチャレンジだ。
言い過ぎないこと。たくさんの言葉で伝えたいこと。そんな思いが私の中でせめぎ合っている。
コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)
Text=Miki Homma(journalist)
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