[本間美紀のコラム 2022/03/14]
ずいぶん前に空間デザイナーの長谷川喜美さんを取材した時のこと、長谷川さんはこんな話をされていた。
大きな企画を受けた時は、しばらく他の仕事をしながら頭のどこかで考えている。
そうすると何かが積み上がってくる。
しばらくすると「その時」がわかるのだそうだ。
長谷川さんはそれに備えて試合前のアスリートのように数日前から、体調を整え、気持ちを集中させていく。
そしてある日、えいっと手を動かして、ラフや言葉でイメージをかたちにしていく。自分の中にあるものをぐんぐんと押し出してゆくのだという。
まさに「表現」とはこういうことなのだろうと思う。
そんな長谷川さんには及ばないけれど、時々、真っ白な紙に向かいたくなる。シンプルで余計なものがなくて、ただ私を出迎えてくれる紙がないだろうか。
そんなことを朝目覚めたときに思ったら、その日の夕方、普段はめったに行かない百貨店の催事場で、その紙に出会った。見た瞬間にこれだと思い、迷わずに購入した。
A4サイズのペーパーパッド。すべすべとした用紙の手触り。ピリッと切れる心地よさ。どこか相性が合う。
調べてみると、1938年創業。カタログなどの製本を手掛けてきた製本会社がつくっているペーパーパッドなのだという。製本会社は本づくりの中でも、とても大切な役割を果たしている。本との不思議なつながりを感じた。
さあここに何を書こうか。迷うことなく書いていこうと思う白い紙。
コラム=本間美紀
伊藤バインダリー
長谷川喜美さんとアムスタイルキッチンの記事「キッチンをめぐる少し未来のお話」
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