
[本間美紀のコラム 2022/03/07 Stories]
田村昌紀(まさとし)さんという人がいる。77歳。インテリアデザイナーであり、センプレというライフスタイルショップを経営している。25年前に独立した田村さんをインタビューした時から、交流が続いている。
そんな田村さんが著書「本当に必要なものだけに囲まれる、上質な暮らし」を出された。自身の人生と家と暮らし、仕事から得たテーマを6つのカテゴリーで書き分けたエッセイで、見開きごとに読み切れるようになっている。献本をいただき、ぱらぱらとめくった。その瞬間、私は書き手として悔しさにかられた。本を作ってきたからわかる。その字面からは「とてもいいことが書いてある」と直感的に伝わったからだ。
果たして内容は期待通りで、紋切り型の言葉は一切ない。時にはばっさりと意見を言い切る。
「オリジナルのものは見本がなく作っているから、ピュアで素朴なのだ」
「優れた製品には使う人の人格までデザインする力がある」
「絵を飾って暮らしの中で眺めていると、受け取るものが毎日違う。それが感受性を育むいうこと」
「傷ついても離れたくないものーならば壊れたものは必ず直せる」
といったようなテーマが書いてあり、一つ一つが心に刺さる。本をつくる側としてはいつも本は汚さないように気をつかって読むのだが、もうやめた。気になるところにはどんどん線をひき続けた。
田村さんは生活のためのデザイン製品や家具をコツコツと売り、製品開発もしてきた道具のプロ。田村さんの本なら私も「人生の道具」として使おうと、感じたこともノートのように書き込んだ。最後には食べるように読んでしまった。
そんな田村さんの本の舞台となった自宅に招かれた。著書の内容通りの味わい深いインテリア、暮らしに即した設計であることはもちろん、本は内容によって読みたい場所が変わると、キッチン、リビング、寝室と田村さんはあちこちに本棚をつくっていた。
するとリビングの本棚に「リアルキッチン&インテリア」と「人生を変えるインテリアキッチン」を発見した。自分の本を素晴らしい人の本棚で見つけることほど、うれしいことはない。仕事部屋の片隅には別のリアルキッチンが2冊、模型の側に置かれていた。お仕事の資料として少しでも役に立っただろうか。
「本は並べるより手に取って読んで、自分のものにしていくことに醍醐味がある」
そう書かれていた田村さんは、リアルキッチンをどんなふうに読んでくれたのだろうか?
そんな私はまだ日々、田村さんの本に線をひき続けている。
文=本間美紀
「本当に必要なものだけに囲まれる、上質な暮らし」(田村昌紀/幻冬舎MC)
「人生を変えるインテリアキッチン」(本間美紀/小学館)
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