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With Lakeside View
湖畔の慎ましいわが家
お鍋やキッチンの取材をたくさんしてきましたが、私にまったく欠けていた視点がありました。それは「ガストロノミー」という視点です。フランス・モヴィエルの鍋は、私にそれを気づかせてくれました。
モヴィエルの工場訪問記【後編】はこちらから
モヴィエルの原点は銅のお鍋なのですが、フランスのノルマンディー地方に1830年に創業しました。その街はもともと教会の銅鐘を作る技術があり、ミュージアムもあるほど。酪農とリンゴ生産も盛んで、食材を買い付けに来る製菓職人から、「鐘がつくれるなら、鍋を作ってくれないか」、と頼まれたのが創業の由来だそうです。
なぜ製菓職人に銅が愛されるかというと、熱を敏感に伝えるから。火にかければ鍋底はすぐに熱くなり、砂糖がスーッと溶けてカラメル状になる。バターが香りを失わずに溶ける。果物をゆっくりじっくり煮あげる。さっと鍋をあげると、熱はすぐに引いて、余分な加熱がされない。職人が思った通りに熱を扱えるからです。
現在のモヴィエルの鍋はステンレスと銅を重ねたタイプやオールステンレスもあり、現代の暮らしで使いやすいように商品の幅を広げているが、銅の鍋の、料理に対する繊細さが、ものづくりのベースにあります。