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Days & Stories

読書という栄養がほしい

2023.09.19 キッチンジャーナリスト 本間美紀

●「聞き書き」の言葉が持つリアリティ

次に読んでいるのは、民俗学者の宮本常一による聞き書きの本。

「聞き書き」という手法は、なんだか自分にもしっくりくる。インタビューという言葉よりも、自分の目指していることに近い気がする。

昭和14年の帆船に乗り込み、船乗りたちと生活を共にする宮本常一。その日々を生々しく記録し、その現場で起こっていることが手に取るようにわかるように、書き取っている。その描写はまるで知人のことのように読め、鮮明なシーンが文字だけで再生される。

船から見える海の変化や移り変わり。ちょっとした物の言い方。船内という狭い人間関係の中での笑ったり、苛立ったりする人々の感情の動き。息遣いが聞こえるよう。事実と叙情が織り混ざる。純粋な創作とは違う世界だ。

キッチンやインテリアの取材でそこまで描写することはないし、何より美しい写真が私の足りない言葉を補ってくれる。それにしても、頭の中では宮本常一の聞き書きのように、文章だけで再現する力を鍛えなければ、続けていけないし、楽しくない。

そしてそこに小説や歌詞のような一節を添えたい。誰かの一生を変えてしまうような、言葉を添えたい。

ふと、それが心に降りてきた時に、まだこの仕事を続けられると思う。

コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)


Text=Miki Homma(journalist)

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