トリノから招いたというレストランのケータリングは、これまた見事で、グラスを手に庭をのんびり歩いていると、プロセッコも前菜もなくなると、サービスマンが次々とサーブしてくれる。ダンスのようなリズム感。
パテのつまったグリーンオリーブや、トリュフの香るソフトなパルミジャーノチーズ、セルフィーユの香りが引き立つ小さなサーモンをつまむ。それぞれ違う香りを楽しむ。
屋外の特設テントではハムやチーズ、タルタルステーキなどさらなる冷菜を好きなだけ盛り付けてくれる。
庭のフレッシュな空気で会話をし、食事をするために、優雅なアウトドア家具があちこちに置かれてて、昨今のアウトドア家具ブーム、単なる庭家具ではなく、屋外をリビングダイニングという「場」に変えるものなのだということが体感できる。
そしてメインは驚くほどの量のスカンピに、ラスティックな仔牛のミートボール、自慢のソースだという大きなマカロニパスタ。この時にはすでにお腹いっぱい! そんなメイン料理が終わっても続くパーティ。さらに夜も深まる頃、さらに人が増えてくる。
市内でのさまざなレセプションで挨拶を終えただろう、アントニオ・チッテリオ、フィリップ・スタルク夫人など、カルテルでデザインをした名デザイナーたち、そしてミラノサローネのトップの要人たちが次々と集まってくる。
前回までミラノサローネの代表を務めていたルーティ氏だから、要人がやってくるのも当然ながら、私が感銘したのは彼らの表情。
ルーティ氏の家での彼らはすでに仕事の顔を見せない。くつろぎ、緊張から解かれ、まさに破顔という感じで笑っている。足を投げ出し、ネクタイを外し、友人と肩を組み合う。
こんな顔するんだ、そんな笑顔もたくさん見た。
一年でもっとも忙しい1週間をこなすために、最も多忙な人たちが、1日の最後に次々と羽根を休めにやってきたのがこの家だった。
そしてこれが本当の意味でのホームパーティなのだと気づくのだった。
自宅のようにくつろげる─ホテルや家具の取材でよく聞く紋切り型のような言葉。その意味は訪れた人に遠慮なく過ごしてもらえること。
アットホーム。ルーティ氏はその意味をこのパーティを通して、迷いなく伝えている。
コラム=本間美紀(キッチン&インテリアジャーナリスト)Text=Miki Homma(journalist)
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