実用美のドイツデザイン
ドイツで、いや世界的にも最大級のキッチンツールブランドといえばWMFだろう。包丁、鍋、カトラリー、キッチン道具…多くのブランドがそれぞれの専門分野から発展してきたのに対し、WMFは早い時期からキッチン分野をトータルに考え始めていた。現在もカトラリー、機能で細かく分けられた豊富なキッチンツール、システム鍋、圧力鍋、オレ・パルスビーなどのデザイナーを起用したテーブルアイテム(フルーツボウルや調味料入れなど)、食器、浄水ポット、キッズ用のキッチンアイテムまで、本国では食に関する幅広いアイテムをそろえている。日本に入ってきているのはその一部だと思っていい。ドイツの街を歩けば必ずWMFのオンリーショップがあり、ドイツのお土産として購入する観光客も少なくない。その起源は古い。19世紀半ば、創業者が、金属加工のマイスターとしての技術を生かし、銀めっきの皿など美しい金属の食器、装飾的なカトラリーをつくり始める。20世紀にはドイツらしい無駄のないデザインをいち早く取り入れ、数々の賞を受賞している。主な原材料となる「クロマーガン」はWMF独自の造語で、1927年から使用している高品質ステンレスだ。クロムの含有が多く、銀(元素記号でアルゲン)のような輝きを持つところから命名されたという。実際にカトラリーはくもることがなく、マット仕上げでもマットの風合いを長く保つ。摩耗や損傷に強く、長く使い続けるために、材料まで吟味している。ドイツ本国ではハイテク化も進む。ふたにセンサータイマーが付き、スマートフォンで制御するデジタルクッキングシステムやハニカム構造で超耐久性のあるノンスティック加工のフライパンも開発された。こういった技術面もドイツらしさ、WMFらしさ。