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問い直してほしい、とこの場所が言う

2022.08.24 キッチンジャーナリスト 本間美紀

●プリミティブな薬草湯を楽しむ

ヴィソン内には誰でも使える薬湯の大浴場「本草湯」があり、今回はホテルの部屋のバスは使わず、ひたすらこちらに通った(ホテル宿泊者は何回でも自由に入れる)。

温泉ではないけれど、三重県のこの辺りは薬草の産地だったという由来から、製薬会社と三重大学が監修した薬湯の大浴場だ。私が入浴した日は「八朔と紫蘇」という夏らしい薬草の袋がお湯の中に浮かんでいた。

お湯から出た後、寝転べる畳敷きの大広間があり、天井のすき間から光がもれこぼれてくる。

簀を巻いた素朴な竹、塗装しただけの木毛板。肌触り良い畳。豪華な素材はひとつもないのに、静かで美しい場所。伊勢神宮にも近い立地のプリミティブな雰囲気。

けれど気取っている感じもなく、さまざまなひとがくつろいでいる。私もごろんと転がって手足を思い切り伸ばした。

視線設計の話に戻るけれど、たとえば湯浴み後のくつろぎゾーンも、「その先の景色」が在る。

普通は雑多になってしまう靴箱ゾーン。ここでさえ、視線の先に小さな景色が用意されている。この場所ではそんな景色にたびたび出会うのだ。

そしてお湯から出た後に、ホテルに戻る帰り道に、水彩画のような夕景を見る。

ある三重県育ちの人が、「伊勢神宮もある神々しい土地・三重は空気が熟んでいる。その濃密な空気の中に山の稜線が重なりあっている。それが一番、三重らしい景色」と話してくれた。

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