●これまで選ばなかった色に出会う
緑豊かな小道を川ぞいに歩くと、さとしさんとゆみさん夫婦の住む慎ましいマンションに着きました。東京郊外の優しい雰囲気の街。その一室は清潔感あるホワイトとゴールドブロンズ、深みある木目の床に包まれた、温かなキッチンインテリアでした。
子どもたちが独立し、15年住み続けたマンションをリノベーション。夫婦二人の暮らしが戻ってきました。インテリア、特にキッチンを楽しみたいと、仕事で忙しい日々、二人で都内のインテリアショップやキッチンブランドを一緒にまわりました。
その時、ドイツ・ジーマティックのショールームで出会ったのが「自分の人生でこれまで絶対に選んでこなかった色」のキッチン。ジーマティックの「ピュア」というモデル、そのゴールドブロンズでした。「実はあまり金属のものやキラキラしたもの、華やかすぎるものは好みではありませんでした。ただ、この扉には鍛金のような深みや美しさを感じて、帰宅してからもずっと忘れられなかったんです」
「他のショールームもめぐったのですが、ゴールドブロンズのジーマティックにするか、そうじゃないか、その二者択一だという思いが確信になりました」と話します。
「もしこのゴールドブロンズを選ばなかったらどうしたのですか?」という質問に、「その場合はゼロから考え直しでしたね。このキッチンがある空間にはどんな家具が似合うだろうとか、どんな風に他のものを組み合わせていくだろうとか、すでにその想像をふくらませていました」。
ゆみさんは熟考の末、ジーマティックのゴールドブロンズを人生の中に迎え入れたのです。「それくらい、心に残る色でした。そしていろいろ見た結果、ジーマティックの“格”というような存在感にも惹かれました」。そうと決めてからは、ソファの色や床の素材をムードボードで何度も確かめ、空間のトーンを決めてゆきました。ソファはカッシーナの「マラルンガ」。
すぐれたインテリアキッチンがオーケストラの指揮者のように、暮らしのイメージや空間のデザイントーンを司ってしまう。二人はその力を理解しているのだと感じました。