ミラノデザインウィークでまず紹介したいのが、イタリアではなくドイツキッチンのジーマティックです。今年で創業97年目を迎えます。

ドイツ・レーネで1929年に創業し、世界でも最も早くからシステムキッチンの考え方を提唱したブランドの一つです。日本でも最も長く輸入実績があり、知名度もあります。
2026年はブレラ地区の特別会場で「アーキテクチュアル・パーセプション」(建築とつながる知覚というような意味)をキーワードにしたイベントが行われました。

ジーマティックのブランドマネージャーが「ただ見てまわるだけでは気づかない」このイベントの、繊細なコミュニケーションを丁寧に案内してくれました。ミラノを回っていると、つい「もの」ばかりを見てしまいがちですが、多くのイベントは体験型にシフトしており、ジーマティックも注意深く見ることで、尽きない泉のように話が湧き出てきました。
「今回のテーマは知覚です。キッチンは料理する場所と目的がはっきりしている。ジーマティックが提案したいのは、機能の先にある使う人それぞれの潜在意識の中に潜む、本当に欲しいものを形にすることです」

それはまず入り口で立ち止まるところから始まりました。「ここで止まってください。そして深呼吸して」とブランドマネージャーは自らも息を深く吸い込みます。気分を爽快にする香りに空間が満たされていることに気づきます。まずは嗅覚です。ジーマティックがブランドのイメージから調香したオリジナルフレグランスが香ります。
そしてモニター前の幾何学的な積み木のようなオブジェは、ジーマティックの開発チームがブランドのアーカイブから、そして現代建築やモダンファニチャー、自然など多くの要素から慎重にキュレーションした素材と色のプラットフォームです。「奥に見えるのは光です。夕日、日の出、日中──光は建築です。なぜなら光なしに建築は成立しないからです」と説明します。

2026年の本社のハウスメッセで発表した最新のカラーマテリアルキットで、これからのジーマティックでは多様な個性に合わせて、ルールを設けず投げかける「ユーザーへの問い」だと、力強く話します。

インスタレーションだと思って通り過ぎてしまう人が多いのが、残念だったのですが、ここでは「何をどのように組み合わせてもジーマティックになる」という創業以来のシステムの考え方が貫かれています。
視覚と嗅覚に訴える「知覚の部屋」を経て、今回は2つの部屋のキッチンをじっくりと見てきました。
一つ目のキッチンは日本でも展示予定の「アーバン SG6」というモデルを高層レジデンスなどで、最大限その機能を発揮し、さらに感性に訴えるものとしてプランされたものです。

このキッチンに見られるのは「ヒューマンセンタード・デザイン」という考え方です。高層階のガラス張りの空間で、ラウンドエッジの丸みのあるキッチンは、殺伐とした都会の中で温かみを与えてくれます。

扉のカラーは新たなメタル調の「ブラッシュド・フェロ」。表面が光を微妙に反射し、時間帯や見る角度によって表情が変化します。ラウンドのフォルムを柔らかく見せる効果も。
「さらに私たちはバイオフィリックな試みも取り込んでいます。もともとアーバンは都市で働く若い世代向けのモデルで健康や環境の意識も高い。そこでキッチンにハーブコンテナを組み込めるようにしています。緑に癒されるだけではなく、フレッシュなハーブをいつでも料理に使えます」

建築、自然と調和しながらも、ジーマティックが100年培ってきた機能はきちんとこのキッチンに収められています。「料理は実は一番大切なことだけど、全く見えなくしているんだよ」とブランドマネージャーは茶目っけたっぷりに話します。
ワークトップの上の収納を開くと、ラウンドした扉の内側にスパイスラックが備えられ、さまざまな調理道具が適した位置に収められているのです。グリーン、スパイス。ウッドボードや食器。ここに食材が置かれれば、楽しく料理が始められそう!

「このSG6は2024年に発表したシステムですがこのたび新たにアップデートされました。見た目は実にミニマリスティックで、たくさん機能があるように見えません。でも中は使う人が本当に必要な機能をオーダーメイドで徹底的に組めるんです」。外側と内側で世界が一変するのが、ジーマティックが約100年貫いてきたスタイルです。

ジーマティックの機能面を高く評価する私としては、本当にこの進化には思わず声を上げてしまいました。背の高い西洋の人向けなのか、ナイフラックも目の高さに。なめし革のホルダーに安全に収納できます。

人間の知覚を大切にしながらも、今年のミラノデザインウィークでは、デジタルやIoT、AIの力を使った設備機器もキッチンに多く取り入れられました。このモデルでも冷たい炭酸水から常温の浄水、熱湯までを一つの水栓でワンタッチで吐水する最新水栓をトライアル採用。「これで電気ケトルや炭酸水メーカー、浄水器まで不要になる」とドイツらしい合理的な一面も見せてくれました。

ブランドマネージャーが「ジーマティックらしさはこういう点も見てください」と示してくれたのは、キッチンキャビネットのサイドの棚。ここがちょうど隣の部屋から壁のように見えるのですが、側面に細いスリットを走らせ、美しいガラスの棚板を取り付けられます。お気に入りのオブジェを飾れるデコレーションウォールとなります。支えの金具まで美しく仕上げているのは、そういったディテールの美までこだわる感性を持つユーザーのためなのです」

最初のモデルでは、都市生活の質を上げるキッチンを「アーバン」で提案しました。たくさんの新作を出すのではなく、既存のモデルを時代に合わせて進化させるという方針にも共感できました。さて、まだまだ終わらないのが今回のジーマティックの展示です。
2つ目は大窓に面した大きなリビングルームスタイルのキッチンです。
エントランスで見たマテリアルプラットフォームのように、幾何学的なキャビネットを高低差をつけて水平に組まれています。これも日本でも最も多く売れているモデル「ピュア SLX」の最新形と言えます。「ここでは建築と次世代の暮らしがひとつになっているのをご覧いただけます。これが、私たちが考える都市型キッチンの未来です」とブランドマネージャーは目を輝かせます。

「ここで表現しているのは『コンシャスデザイン』です。つまり、理由をもって何かを行うということです。そして、なぜそれを行うのか、それがどのように影響するのかを正確に理解しているということです。では、この部屋に入ったとき、あなたはどんな印象を持ちましたか?」ブランドマネージャーから問われました。

「リビングルームのようでいて、とても構造的で、建築的でそしてスマートです」と答えました。
「ここで私たちは穏やかなムードを出したい。セラミック、金属のフロントパネル、天然石など、たくさんの素材を使っているにも関わらず調和している。それが入り口で見せたキュレーションの成果なんです。ただあの展示とここがどう形になっていくかは、わからないでしょう? 感じていることは見えない。それを形にするのが今後のジーマティックのキッチンなのです」

「機能面では、例えばご覧のように、ここではフロントパネルがワークトップよりも長くなっています。通常のキッチンワークトップであれば、水がキャビネットの中に流れ込んでしまうことがあります。しかしドリップエッジが解決し、料理のストレスをなくします。プラス面に加え、マイナス面も感じさせない。それがポイントです。なぜなら私たちは、人々にキッチンを本当に楽しんでほしいからです」
見えない感覚がどんどん具体化していくのを感じていきます。
今回、発表になった新キャビネットは光るガラスの宝石箱のよう。そこにヘッドフォンがいくつも飾られています。中にはダイヤモンドの微細な粒をあしらった繊細なものも。そして今回はドイツの音響ブランドLoewe(レーヴェ)とコラボレーションした展示でした。「私たちは、すべての感覚と接触したいのです。視覚と音。新しいガラスのキャビネットでそれを表現しています」

「このヘッドフォンには私たちがクラフツマンシップと呼ぶものが宿っています。アルミニウム、ダイヤモンドカット、そして外側のリングまでが精緻なディテールで製造されています。ジーマティックの哲学と共通するものを見せることで、音に感度の高い人の感性を刺激します」とブランドマネージャーは展示の意図を説明します。

「ジーマティックのキッチンが音にも配慮しているということですか」と問うと「聴覚というより、感覚ですね。手にしたときの満足度の高さを感じる意識。すべては感覚に関わっています。私たちはユーザーの心のウェルビーイングのために、キッチンを通して感性への旅へと連れていくのです」
例えば、とブランドマネージャーはガラスのキャビネット、ヘッドフォンに共通するディテールの美しさを、キッチンキャビネットでも示してくれました。

「木と金属は異なる特性を持っています。木は動き、金属はまったく動きません。そしてここで私たちが見せているのは、その両方の完璧な組み合わせです。この美しい無垢材と金属のピンストライプのすき間はほとんど見えませんが、それがキッチンに個性を与えています」

また壁にハンギングされたグラスキャビネットは最新形です。ガラスの表面はプリントではなく、ガラスに焼き付けたセラミックで柄を浮かび上がらせています。

「2000年ごろから、キッチンのオープン化が進みました。そのステージングから、キッチンは自分自身のステータスを表現するものになりました。そしてジーマティックは第4の進化は『意識』だと考えています。自分の感覚をとらえ、物事を本当に意識的に行うこと。本当に感覚の解放を支えることを試みることです」とジーマティックの展示を締めくくりました。

ドイツ人らしい理論の通った説明は少し難しいかもしれませんが、求める建築を感性からイメージする。そこにスマートに適切に機能を加えていく。さらにより趣味性の高い要素を加えていくことができる。目の前にあるものを見て選ぶのではなく、自分の中の感性を形にすることをサポートしてそれがキッチンになっていく。いわゆるオーダーキッチンとも違う、「感性から組み立てるジーマティックキッチン」という新しい道筋をこの展示では示していました。
イベント期間中にはパーティも開かれ、ミラノでのドイツキッチンは存在感を持って盛り上がりました。

たった2つのキッチンにたくさんの哲学と機能を集約させて、展示する。それを丁寧に理解することが、ブランドを知ることになる。ミラノデザインウィークだからこそ体験できる、キッチンの新しい見せ方だと感じました。
●ジーマティックのブランド情報はこちらから
〈Life with SieMatic 2024〉ジーマティック、ライフギアとしてのキッチン
https://realkitchen-interior.com/sp-issue/38407
●ジーマティックの各種の記事はこちらからも読めます。
取材・文/本間美紀 早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」編集部に入社。独立後はインテリア視点からのキッチン、家具、住まい、家電、キッチンツールまで、デザインのある暮らしの取材を得意とし、建築家住宅の取材は300件以上、ユーザーとメーカー、両サイドからのインタビューを重視し、ドイツ、イタリア、北欧など海外取材も多く、セミナー活動も増えている。著書に「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルキッチン&インテリア」(以上小学館)、「デザインキッチンの新しい選び方」(学芸出版社)。
Report& text=Miki Homma(Journalist)
SieMatic AOYAMA[ジーマティック青山]
東京都港区南青山2-13-10
営業時間:10:00-17:30(完全予約制)
休:土曜・日曜・祝日定休(土曜は不定休)
TEL:03-5785-4300
[アクセス]外苑前駅4出口より徒歩3分
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