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Serene Space, Delicate Details
静けさの中にさりげなく自分らしさを
工業用刺繍機メーカー「TAJIMA」と現代日本画家・大竹寛子さんのコラボレーション展示も素敵でした。
会場に入ると、TAJIMAの刺繍技術で再現された大竹さんの色彩豊かな作品が空間全体に広がっており、その美しさに思わず引き込まれます。
大竹さんの作品は、キャンバス上で繊細に重ねられる色使いが特徴ですが、ここではたった13色の糸でその世界を表現しています。
光の加減でもっと色があるように工夫をしているそうです。興味深かったのは、あえて実際に大竹さんが使っている色より彩度を抑えた糸を選び、色が重なることで色彩の美しさを表現しているということ。刺繍で再現された色彩の深みには、表現の可能性が広がった。
さらに面白かったのが、電気が通る特殊な糸を用いたインスタレーションです。刺繍に触れると電流が流れ、連鎖的に蝶の刺繍が光り始めるのです。技術とアートが融合することで、平面のアートたちがまるで生命を吹き込まれたように、魅力を放つのです。
どちらの展示も工業製品としての刺繍やウール100%の織物が、ファインアートの持つ生々しさを見事に表現しており、これまで別物と思っていた「工芸」と「ファインアート」の境界が曖昧に感じられました。触れてはいけないキャンバスの緊張感と異なり、触れてみたくなる不思議な魅力もあり、新たなアートの可能性が広がった展示でした。
取材・文=半井梨佳(アソシエートライター)