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美しい家で美しく逝く

2024.09.11 キッチンジャーナリスト本間美紀

【本間美紀のコラム 2024/9/11】

私は戦前に曽祖父が建てた古い日本家屋で育ちました。駅近の住宅街の中ですが、唯一残った日本家屋として「蔦の家」と呼ばれています。敷地内には祖父が建てた家もあり2棟の家を庭がつないでいます。

襖と障子と杉材の床壁と畳の家。築年を詳しく調べてみると母屋は満州事変の起こった年。戦争に突入しようというまさに激動の時期に建てられていました。教師をしていた曽祖父は結核のため、兵役を免除されたのでしょう。家をずっと守っていたようです。

杉の太い梁柱、古時計がボンボン鳴り、砂壁は崩れそう。テーブル、ソファ、ベッド、フローリングやドアは、今なおありません。

でも建てた時そのままを残す。
父はこの家に手を入れることを、頑なに許しませんでした。風が吹くたび玄関や窓がガタガタ鳴りました。庭には大きな杏の木がそびえ、枝葉を広げています。雪の日は違う顔を見せてくれた庭でした。

一度だけ、母が台所を改築したいと言いました。便利な住宅設備を検討する母。私はこの古い家にピカピカなキッチンは似合わないと思い、今はエコ住宅の名手となった建築家・三浦正博さんがまだ駆け出しだった頃に、増改築の設計をしてもらいました。

無垢の杉材のキャビネットに手板金のステンレスワークトップを載せた素朴なキッチンを工務店に作ってもらいました。古い木の家は不便だけれど、風合いが良く、私たち家族はこの家を愛していました。

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