《My kitchenhouse》人気のコラボ連載「マイキッチンハウス」。今回は東北6県の拠点として誕生した、キッチンハウス仙台ショールームを紹介します。
キッチンハウス仙台ショールームは、仙台市郊外の高台にあります。車でアプローチしていくと、緑の外構が少しずつ見え始め、カーブを曲がった先に建物の全景が現れます。国道沿いに住宅設備のショールームが並ぶ、従来型の立地とはまったく違う印象です。

「2時間、3時間車を走らせて来ていただいた時に、その期待値をどう超えるかが大事でした」と話すのは、キッチンハウス北日本営業部長兼仙台ショールーム店長の菅原慎吾さん。仙台という一都市だけではなく、東北6県から訪れる人を想定した、広域型のショールームです。

けれども、ここにあるのは単なる大型展示場ではありません。むしろ第一印象は、キッチンショールームというより、小さな美術館やギャラリーに近いものです。自動ドアがすぐには見えないエントランス、奥へ進むにつれて視界が開けていく構成、そして大きな空間の中に点在するキッチン。訪れる人の気持ちが少しずつ切り替わっていくように設計されています。

「佇まいから、人の気持ちの移り変わりを空間で表現したいという考えがありました」と菅原さんは話します。
このショールームの特徴は、キッチンありきで空間がつくられていないことです。普通のショールームでは、まず「どのキッチンを見せるか」「どの仕様を比較するか」から展示計画が始まります。けれども仙台では、先に建築空間の骨格があり、そこにキッチンが置かれています。

設計は東京のジャイロアーキテクツ。建物全体のコンセプトは、キッチンハウス社長の田島宗八さんが中心となり、建築家と対話しながらつくられました。空間には丸い石が点在し、それが内部にリズムを生み、自然に人を誘導していきます。

高い天井の下に入ると、フルオーダーのキッチンがアートピースのように置かれています。キッチンに近づいて細部を見るだけでなく、少し距離を取って眺められるのが新鮮です。菅原さんは「物を決めるというより、キッチンにはこういう可能性があるんだと感じてもらうエリアです」と説明します。

ここでは、「4人家族の標準的なキッチン」や「マンション向けの現実的なサイズ」といった説明から始まりません。まず大きな空間を歩き、素材、フォルム、光、視線の抜けを感じる。そこから、自分のキッチンのイメージが少しずつ立ち上がってくるのです。
最初に現れるのは、フルオーダーのゾーンです。ここでは、キッチンハウスが持つ表現力の幅を、かなり大胆に見せています。
たとえば、ラウンドしたキッチン。メタルポリッシュのブロンズ色で優美な柄のセラミックトップ。天板だけではなく、サイドパネルや下部の納まりまで曲線で構成された、新しい試みです。

こちらはキッチンハウスオリジナルの扉材「エバルト」のブラックを使い、オーク材のテーブルをオーダーでプラスしたフルオーダーモデルです。「メインのダイニングは別にあるけれど、キッチンに少しだけダイニングの要素を持たせました。作業しながら話したり、少し休憩したりできる場所ですね」と菅原さん。

壁面収納には電動で開閉する扉も採用されています。手掛けの溝がない、すっきりとしたデザインを叶えながら、使い勝手とどう折り合いをつけるか。そこには、フルオーダーならではのリアルな問いがあります。

「かっこいいことはかっこいい。でも、機能性とデザインのどちらを最後に勝たせるか、そういうところも考えていきましょう、という説明をしています」
美しさだけではなく、使う人の動作や日常に合わせて、どこまでデザインを突き詰めるか。その対話こそが、フルオーダーの醍醐味なのかもしれません。
もうひとつ印象的なのが、フュームド(燻煙)ラーチ材の突板を使ったキッチンです。端正な縦の木目のキッチンで、メープルカウンターの表情が空間にやわらかさを加えています。

シャープでエッジの効いたデザインでありながら、木の質感が加わることで、東北の住まいにも自然になじみそうな空気があります。古民家や木の住宅が多い地域では、こうした素材感に親しみを覚える人も多いはずです。

ショールームでは、素材をただサンプルとして見るのではなく、空間の中でどう見えるかを体感できます。同じ木でも、光の入り方、隣り合うタイル、床や外の緑との関係で、印象は大きく変わります。キッチンを単体の商品としてではなく、住まいの中の風景として考えることができるのです。

フルオーダーゾーンでキッチンの大きな可能性を感じたあと、動線はセミオーダーのゾーンへと進みます。ここでは、キッチンハウスのベーシックなモデルやグラフテクトを含め、より現実的な選択肢を見ることができます。
このゾーンの天井高はなんと7m。吹き抜けのある家のサイズ感も感じることができます。

「最初からフルオーダーです、という方はフルオーダーゾーンでいいのですが、自分が何をしたいかまだ定まっていない方も多いです。まず最大幅を感じていただき、それを具体的なニーズに落とし込むとこうなります、という場所です」と菅原さんは話します。

さらに進むとキッチンハウスのもっとも基本的なレイアウトが並びます。アイランド、デュエ、ポポラート、L型など、王道のレイアウトが見られる構成です。
面白いのは、このゾーンでも空間にゆとりがあることです。キッチンの正面だけでなく、少し引いて眺めることができます。たとえば建築図面を持参すれば、「リビングの壁がここまで離れた時に、キッチンはこう見える」ということも、床のタイル目地を使って実感できます。タイル1枚が600ミリなので、距離感を身体でつかみやすいのです。

またキッチンと他室の動線の提案もあります。このキッチンはシンクとコンロが離れています。シンクとテーブルがつながっている。その距離感を体験できます。そして壁の裏にも工夫があります。

パントリーとユーティリティ収納、さらにキッチン下のダストボックスまで、表からは見えないリアルな生活動線の提案があります。ショールームでありながら、自分の住まいのスケールに置き換えて考えられる。これは大きな魅力です。
このショールームでもうひとつ印象に残るのが、ラウンジキッチンです。テラスへ視線が抜ける場所にあり、キッチンを使う人だけではなく、その周りに集まる人の居場所も意識されています。

実際に水も電気もつながった実機のキッチンで、オーブンも備えています。テーブルも特注。販売のための展示というより、人が自然に集まり、くつろぎ、時には体験できる場所です。

「空間として自然と人が集まってくる場所として置いています。ゆくゆくは実際に使ってもらいたいという思いもあります」と菅原さん。

オープンから約3カ月。来場者の中心は宮城県内ですが、山形、秋田、岩手などからの来場もあるそうです。平均滞在時間は2時間弱。時間をかけて見学し、相談し、自分のキッチンを考える場所として使われ始めています。

キッチンハウス仙台ショールームは、製品をたくさん並べて比較する場所ではありません。高台へ向かうアプローチから始まり、建築空間を体験し、フルオーダーの可能性に触れ、セミオーダーで現実的な選択肢へ戻っていく。そんな流れの中で、自分にとってのキッチンを考える場所です。
いわゆるキッズルームのように、子どもを別室に分けるのではありません。家族で訪れた時にも、子どもやご主人がソファに座りながら過ごせる、大人の空間の中の余白になっています。

キッチンを選ぶ時間は、必ずしも短くありません。だからこそ、ただ効率よく商品を見るだけではなく、心地よく滞在できることが大切です。仙台ショールームでは、その時間そのものが体験として考えられています。

地方都市のショールームは、これまで「便利な場所にあること」や「設備を効率よく確認できること」が重視されてきました。けれども仙台ショールームは、少し違う方向を向いています。

ここでは、キッチンは設備ではなく、住まいの中心となる風景として提案されています。美術館のようにゆったりと歩き、少し離れて眺め、素材やフォルム、光や緑との関係を感じる。その体験の中で、キッチンの可能性が開かれていきます。

東北でキッチンを考える人にとって、ここは一度訪れる価値のある場所です。見て、歩いて、座って、距離を測り、光の中で素材を確かめる。キッチンを選ぶ時間が、住まいそのものを考える時間へと変わっていくショールームです。

設計:ジャイロアーキテクツ
https://www.gyro-architects.co.jp/
取材・文/本間美紀 早稲田大学第一文学部卒業後、インテリアの専門誌「室内」編集部に入社。独立後はインテリア視点からのキッチン、家具、住まい、家電、キッチンツールまで、デザインのある暮らしの取材を得意とし、建築家住宅の取材は300件以上、ユーザーとメーカー、両サイドからのインタビューを重視し、ドイツ、イタリア、北欧など海外取材も多く、セミナー活動も増えている。著書に「人生を変えるインテリアキッチン」「リアルキッチン&インテリア」(以上小学館)、「デザインキッチンの新しい選び方」(学芸出版社)。
text=Miki Homma(Journalist)
撮影/岡村享則 photo=Yukinori Okamura
Supported by kitchenhouse
キッチンハウス仙台ショールーム
宮城県仙台市泉区朝日2-15
営業時間:10:00~18:00
定休日:水曜日(祝日除く)、年末年始(年1回休館日あり)
施設:駐車場(19台)・授乳室
電車でのアクセス:市営地下鉄南北線「泉中央駅」よりタクシーで約15分
車でのアクセス:東北自動車道「泉スマート」ICより約10分
お問い合わせ/キッチンハウス 仙台ショールーム TEL:050-2030-6761
www.kitchenhouse.jp